研究室 Pick UP!! 環境生物学研究室
生態系に外来生物が持ち込まれると、そこで暮らしてきた動植物の「つながり」が大きく変化します。病原体との関係も例外ではありません。外来生物と一緒によその病原体が持ち込まれてしまうリスク*や、もともと存在していた病原体とのバランスが崩されてしまうリスク**があります。外来生物の問題に対しては、「わかりやすい被害」に目を向けるだけではなく、ぱっと見ではわからないような「見えざる被害」にも配慮していかなくてはなりません。
*専門用語で「spillover」あるいは「pathogen pollution」と呼ばれています。**こちらは「spillback」と呼ばれています。
神奈川県を舞台に
例えば県内では、特定外来生物に指定されているクリハラリスが鎌倉や横浜あるいは三浦半島を中心に定着し、じわじわと分布を拡大しつつあります。樹皮剥ぎによる損害に加え、農作物を荒らしたり、民家への侵入や電線を損傷する場合もあるため、地道な駆除が進められています。
本種による「わかりやすい被害」が目立つ一方で、先にあげた「見えざる被害」についてはどうでしょうか。実は、研究者不足により、十分に評価がなされていない状況にあります。そこで本研究室では、特にクリハラリスが保有する寄生虫に着目し、どんな寄生虫がどのくらい存在し、どのような関係が見られるか調べています1,2)。
検査の様子
コラボこそ全て
生態系への被害だけでなく、人間活動にかかわる経済的被害のために、行政から駆除業者をはじめ、様々な大学や専門機関がクリハラリスの問題に取り組んでいます。これはすなわち、クリハラリスをとりまく問題には、みんなで力を合わせて挑まなくてはならないことを意味しています。まさに「協力なくして成功なし」です。
私たちは、日本獣医生命科学大学 保全生物学研究分野、東洋大学 フィールド動物科学研究室、クリハラリス情報ネットの関係者や、関係行政・業者のかたがたとともに、解剖や情報収集に努めています。学外の専門家や他大の学生さんとワイワイ楽しく交流しながら研究できるのは魅力の一つと思います。
参考文献
1) Katahira H, Y Eguchi, S Hirose, Y Ohtani, A Banzai, Y Ohkubo, T Shimamoto (2022) Spillover and spillback risks of ectoparasites by an invasive squirrel Callosciurus erythraeus in Kanto region of Japan. International Journal for Parasitology: Parasites and Wildlife 19, 1-8.
https://doi.org/10.1016/j.ijppaw.2022.07.006
2) 江口勇也・嶌本樹・田村典子・坂西梓里・片平浩孝 (2022) 関東地方に定着したクリハラリスにおける外来糞線虫Strongyloides callosciureusの寄生状況. 哺乳類科学 62, 31-37.
https://doi.org/10.11238/mammalianscience.62.31