研究室 Pick UP!! 環境分析学研究室
日本における土壌汚染は、古くは19世紀後半の足尾鉱毒事件、最近では豊洲新市場が記憶に新しいところです。
土壌汚染の有無は、法律で定められた有害物質が環境基準値を超えているかどうかで判断されます。鉱山のように重金属の濃度が元々高い地域もありますが、土壌汚染の多くは、工場等で使用された有害物質や廃水が、地表面から浸透して土壌に蓄積することで引き起こされます。
土壌汚染は “蓄積性” の汚染
土壌汚染が大気汚染や水質汚染と大きく異なるのは、「有害物質が長期に渡って土壌に蓄積されること」、そして「(地下水への汚染が無い限り) 汚染の発見が難しいこと」にあります。
このため、今ほど規制が厳しくなかった1960年代以前に、工場や研究所があった土地などからは、しばしば、土壌の汚染が報告されています (例えば、豊洲新市場は、東京ガスの工場跡地に建てられたものです)。
X線で土壌の有害物質を分析する
環境分析学研究室では、X線を使った土壌中の有害元素の分析を行っています。
「X線」と聞くと、レントゲン撮影や空港での手荷物検査をイメージする方が多いかもしれませんが、レントゲン撮影以外にもX線の用途はたくさんあります。その一つに蛍光X線分析法 (XRF) という分析法があります。蛍光X線分析法は、物質にどの元素がどのくらいの量で入っているかを数10秒~数分で簡便に測定することができる分析法です。
私たちの研究室では現在、東京~神奈川の都市域の土壌を採取・分析して、主成分から微量な有害元素までのデータベース化を目指しています。
蛍光X線分析装置の外観と試料室部
蛍光X線分析はまだ分からないことだらけ
蛍光X線分析法は土壌だけでなく、廃棄物や大気粉塵*、プラスチック**などの環境試料の分析にも広く応用されています。蛍光X線分析の歴史は古く、分析手法もある程度確立されていますが、正確な分析をする上で、まだ良く分かっていない現象も存在します。
例えばこれまでの研究結果から、同じ量の元素を分析したとしても、その元素の化合物の種類が違うと、分析値に大きく影響することが分かってきました。
私たちの研究室では、未だ解明されていない蛍光X線分析の誤差要因を解明するための新しい分析手法の開発も行っています。
土壌の試料前処理の様子
大学院生の学会発表の様子 (日本分析化学会第72年会にて)
環境分析学研究室
中野 和彦 講師
伊藤 彰英 教授
参考文献
*: K. Nakano, Y. Oshiro, S. Azechi, Y. Somada, D. Handa, Y. Miyagi, A. Tanahara, T. Arakaki, A. Itoh: “Preparation of standard materials of atmospheric aerosols for XRF analysis using a small chamber sampling unit”, X-Ray Spectrom., 47, 450-458 (2018).
**: 中野和彦: 「第 6 章 2 プラスチック・電子材料分析」 (分担執筆), pp.263- 271, 「X線分光法 (分光法シリーズ)」, 辻 幸一, 村松 康司 編, 講談社サイエンティフィック (2018).